大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(借チ)2006号 決定

申立人 沢田和俊

右代理人弁護士 中村護

同 平井嘉春

相手方 鈴木誠一

右代理人弁護士 中川了滋

主文

申立人が相手方に金六五万円を支払うことを条件として、別紙目録(一)記載の借地権を埼玉県狭山市新狭山二丁目二二番二号高島一郎に譲渡することを許可する。

右借地権の譲渡がなされた後の地代を、三・三平方米につき一月金二〇円と定める。

理由

一、申立の要旨

申立人は別紙目録(一)記載の土地を、昭和三二年四月一日から期間二〇年、非堅固建物所有を目的とする条件で賃借りし、その地上に別紙目録(二)記載の建物を所有してきたが、カナダ国に移住することとなったので、本件建物及び借地権を友人高島一郎に譲渡することとした。よって賃貸人の承諾に代わる許可を求める。

二、本件資料によれば、次のような事実が認められる。

1  相手方は昭和二七年頃本件土地を山本弘に賃貸し山本はその地上に別紙物件目録(二)の(1)の建物(増築前、床面積一〇坪)を建築した。

2  申立人は、昭和三二年三月佐伯不動産の仲介により、山本から右建物及び本件借地権の譲渡を受け、(仲介手数料を含め代金総額五五万円)相手方との間で、前記申立人の主張のとおりの賃貸借契約をした。

3  申立人は昭和三四年に別紙物件目録(二)の(2)の建物を建築し、これを作業場として電気測定器類の製造に従事するようになった。

なお、前記(1)の建物は、昭和三七年頃増築により現況のものとなった。右の増築にあたっては、相手方の承諾を得たが、特に金銭の支払いはしていない。

4  申立人から借地権を譲受ける高島一郎は、現在東亜電波工業株式会社において係長をしているが、本件建物とともに作業場の設備及び営業権を包括的に譲受けた上、(代金六〇〇万円)申立人の事業を引きつぐ予定でいる。

5  本件土地附近は住宅地であるが、右作業場での製造作業は、いちじるしい騒音等を発することはなく、特に近隣に迷惑を与えるものとはいえない。

三、以上の事実によれば、本件借地権の譲渡が、相手方に不利となるおそれがあるとはいえないし、その他本件許可を不相当とする事情は認められない。よって本件申立てを認容すべきものとする。

四、そこで、附随処分の要否及び内容を検討する。

1  鑑定委員会の意見の要旨は、次のとおりである。

本件土地の更地価格を坪八万円、借地権価格をその七割と認め、利子率六%として計算された経済賃料坪一四一円と比べ現賃料が一五円であることを考慮するときは、借地権譲渡に際し相当額の金銭を賃貸人に支払わせる必要があるとし、その額を借地権価格の約八%、すなわち合計金四五万円を相当とする。また、賃料については、右金四五万円の給付をなすときはその増額を必要とするとはいえないが、本件借地が譲受人の営業用に利用されることを考慮し、かつ、近隣の賃料と比較した上で、坪五円の増額を相当とする。

2  当裁判所は、右鑑定委員会の意見及びその意見書に示された資料を参考とし、前認定の事実と合せて、次のように考える。

申立人は昭和三二年三月本件借地権及びその地上の居宅一棟(床面積一〇坪)を代金五五万円で買受けた。代金の内訳を建物の価格が約二二万五千円、仲介手数料が二万五千円と推定されるとすれば、借地権の価格は三〇万円にあたることになる。(仲介人から賃貸人に対して名義書換料が支払われたという事実は認められないので、その支払いはなかったものとする)。この三〇万円を現在の貨幣価値に換算すると、概ね六割増しの五〇万円とみることができる。次に申立人は本件借地権を地上の建物、作業場で使用する計器類、電話加入権及び営業権を含めて金六〇〇万円で譲渡しようとしているのであるが、その代金の内訳は明らかでないので、一応右売買においては、借地権価格を更地価格の六割とみているとして、四八〇万円と推定する。従って、四八〇万円と五〇万円との差額四三〇万円が、土地の価格の騰貴に伴なう借地権価格の増額分であり、申立人が本件借地権譲渡によって受ける利得とみることができる。

借地権者が借地権を譲渡する場合に、近年の土地の価格の急騰に伴なう利得を独占することは、現状においては賃貸人との関係で衡平を失するものというべく、ある程度賃貸人に分配することをもって相当とせざるを得ない。そこで分配の割合をいかにすべきかを定めることにする。本件においては約定期間は二〇年であり現在ほぼその半分を経過した段階にある。すなわち、申立人はなお一〇年は借地を継続できる権限を有している。そこで右四三〇万円の半額にあたる二一五万円は、先づ申立人が受けることができる利得とする。残額二一五万円を一般的慣行として認められている借地権価格の更地価格に対する割合七割をもって分配すると、約一〇分の三にあたる六五万円が地主の受けるべき利得ということになる。

以上により、本件借地権の譲渡については、申立人から相手方に対し金六五万円の支払をなすことを条件として許可するのを相当と認める。

譲受人に対する関係での賃料については、鑑定委員会の意見に従がい、三・三平方米当り五円を増額することとする。

よって、主文のとおり決定をする。

(裁判官 西村宏一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例